デス・オーバチュア
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そこは宝物庫。 一条の光も存在していないのに、そこにあるモノの姿はなぜかはっきりと目視できる不思議な闇夜の空間だった。 武器、宝石、用途不明の物体が、果ての見えない空間を埋め尽くすように無造作に放置されている。 そう、安置という言葉が使えない程、無造作に整理や分類もされずにゴチャゴチャに散らばっているのた。 宝物庫というより、玩具箱をひっくり返した子供部屋、価値の解らない者にすればゴミ捨て場に見えるかもしれない。 「…………」 闇夜の空間に背の高い一人の女が立っていた。 暗く深く輝くような白髪、妖しく透き通るような薄紫の瞳、黒よりも冥(くら)い紫……ダークパープルのドレスをシックに着こなしている。 ドレスは一見、甘ロリやゴスロリのようなレースやフリルの多い少女趣味的(ロリータ)なファッションのようだが、それらよりはもう少し落ち着いた雰囲気のファッションであり、クラシカルでハードなデザインをしていた。 長身や美人過ぎて、甘ロリやゴスロリでは似合わない女性のための少し大人なロリータファッション……一般的にクラッシクロリータと呼ばれるファッションである。 「……もう少し整理して欲しいものね……」 彼女の右手には、ドレスと同じダークパープルのシックな日傘(アンブレラ)が握られていた。 アンブレラ……それは彼女の名でもある。 少なくとも、最近、彼女が他人に対して名乗っている自らの名は、それだった。 「うふふふふ……泥棒さんが楽に盗めるようにかしら?」 木霊する薄笑いの声と共に、アンブラの前に一人の女が出現する。 「入口は、私の遙か後方に一つしかなかったはずだけど……沸いて出たのかしら?」 「嫌ねぇ〜、ひとをボウフラ扱いしないでよ……自分の家ですもの、全室フリーパスでもおかしくはないでしょう〜」 「自分の家……?」 「うふふふふふ……」 アンブレラは、薄ら笑う女の姿を凝視した。 ペンシル(スレンダー)ラインのコンサートドレスは闇夜の如き見事な黒色。 両腕と顔の肌は染み一つ無い綺麗な白色だった。 対極の色であるドレスの黒と肌色の白が互いの美しさを際立たせあっている。 淡く儚げな金色のストレートロングに、ドレスと同じ色のヘアバンドをしていた。 「それにしても便利な体ねぇ〜、地上と魔界の結界すら、通れるだけの分体に分けて送り込めるのだから……」 結界は弱い魔族しか擦り抜けられない。 ならば、自らを擦り抜けられるレベルの弱い魔族(塊)に切り分けて、一つ一つ通せばいい……そうやって、このアンブレラという魔族は地上から魔界にやってきたのだった。 「どうやら、私のことをよく知っているようね……それとも、ずっと前から私を見張ってでもいたのかしら?」 「うふふふふ、どちらも正解ぃ〜。私はあなたのことをよく知っているし、とても興味があるわ」 金髪の女は、誘うような妖艶な微笑を浮かべる。 「とりあえず、自己紹介、私はセレナ・セレナーデ……初めまして、アン……アンブレラ様? うふふふふふっ」 金髪の女……セレナは、まるで自分のセリフにおかしなことでもあったかのように笑った。 「セレナ・セレナーデ……名前からすると、魔皇の娘ね……?」 「ええ、一応第一皇女よ……まあ、お母様は第二皇妃で格が落ちるのだけどね……うふふふっ」 今の笑いは、自分の母親を嘲笑う笑いだということが、アンブレラには解った。 「うふふふ……もっとも、人間じゃあるまいし、生まれた順番も、本腹も妾腹も大した意味ないのだけどね……」 後継者、魔皇の継承権順位などというものは存在しない。 皇子、皇女といっても、ただ単に魔皇の息子、娘だということに過ぎないのだ。 魔皇は老いることもないし、将来的に子に譲る地位でもないのだから……。 「それで、魔皇の第一皇女が私なんかに何の用なのかしら……?」 「うふふふふ、馬鹿ねぇ……用も何も、自分の家に泥棒が入ったら見に来るのは当たり前じゃない? 違う? うふふふふふふっ……」 「……ええ、確かに普通はそうね。でも、貴方達は普通ではないでしょう? 現に、いつまで経っても貴方以外の誰かが駆けつけてくる気配がない……私はとっくに気配を消すことをやめているのに……」 「うふふふふ、正解、その通りよ。きっと気づいても誰も来ない……お父様は一度手に入れた物に執着なんてないし、お母様はお父様にしか興味がない、私の兄妹達も宝物庫に誰が侵入しようが、何が盗み出されようが知ったことじゃないでしょうね……きっと、あなたは堂々と正門から帰ることができるわ……と言うより、こんなこっそり侵入しなくても、正面から堂々と来てくれて良かったのよ、無駄な苦労だったわね、あははははははははははっ!」 セレナの笑い声が、闇夜の空間に響き渡った。 「……なるほど、確かに、貴方がどれだけ馬鹿笑いをあげても、誰も来ないみたいね……」 「あはははははははっ! そういうことよ! だから、遠慮なく好きな物をお持ち帰りしていいのよ!」 「…………」 「もっとも、あなたの目当ての物だけは別だけどね、うふふふ、うふふふふふふふふふふふふっ……」 「……此処には無い?」 楽しげな薄ら笑いを続けるセレナに対して、アンブレラは至極冷静である。 「いいえ、此処の最奥にちゃんとあるわ。でもね……流石にアレだけはお父様の許可が無いと持ち出せないようになっているの……どうする? 諦めるぅ〜? きゃはははははははっ!」 セレナは狂ったように楽しげな笑い声をあげた。 「…………」 アンブレラは無言で歩き出すと、セレナの横を通り過ぎようとする。 「あらぁ、つれない〜、そこは慌てるなり、困るなりしてくれないとつまんないぃ〜……私の言葉が信じられないのぉ〜?」 「信じる理由の方が逆に何も無いのだけど……」 「……ぷっ、あははははははっ! そうね! そうよね! あなたの言うとおりね、あははははははははははっ!」 セレナは、アンブレラの返答がよほど面白かったのか、楽しげに笑い続けた。 アンブレラは、そんなセレナを無視して、一人どんどん奥へと歩いていく。 「うふふふ……いいわ、私がお父様に許可をもらってきてあげる。その代わり……」 セレナは兎のようにぴょんと跳びはねると、アンブレラの頭上を軽々と跳び越え、彼女の前方に着地した。 「その代わり……?」 アンブレラは歩みを止めると、セレナの次の言葉を待つ。 「私とお友達になってくれる〜?」 セレナの赤い瞳は闇夜に爛々と輝いていた。 「…………んっ……」 玉座のような椅子に座りながら眠っていたアンブレラはゆっくりと瞳を開けた。 目覚めたアンブレラは、『右手』に視線を向ける。 「……とりあえず……完治したようね……」 アンブレラは、掌を握ったり開いたり、肘を動かしたりして、正常さを確認した。 「これなら、暗黒火球の一、二発ならおそらく問題なく使えるはず……」 完全に消失(焼失)し、一から再生した右手の暗黒炎への耐性が以前より遙かに上がっているのが解る。 より強靱に、より暗黒の炎に馴染むように、彼女の右手は蘇ったのだ。 「……ぅ……んん……ぁ……」 寝息とも寝言ともつかない微かな声。 黒髪のエルフの少女が、玉座の前の床で眠っていた。 「さて……」 アンブレラは、黒髪のエルフ……ウィゼライトを一瞥した後、視線を上空に向ける。 『うふふふふっ、見いつけたぁ〜』 わざとらしい間延びした声と共に、アンブレラの見つめるまさにその空間に、『彼女』は出現した。 体を覆うはハイレグ・レオタード、首の部分に蝶ネクタイ、両手首にはカフスボタンがついたリストバンドを取り付け、両足には網タイツを着用し、ハイヒールを履いている。 以上の物は全て黒で色を統一されていた。 ハイレグ・レオタードはスポーツ(運動)用のそれとは違って、胸部の山と谷をクッキリと見せるようにするため、、背中のファスナー(チャック)のみを支えにしている。 そして、何よりも、淡く儚げな金髪の頭頂から生えている『うさ耳』が特徴的だった。 うさ耳に比べれば、背中と腰の辺りから左右に一枚ずつ……計四枚生えている黒い天使(鳥型)の翼もそれ程珍しいものでもない。 彼女……セレナ・セレナーデは、鳥のように翼を羽ばたかせながら、アンブレラの前に降り立った。 「お久しぶり、アンブレラ」 四枚の黒鳥の翼がセレナの体に巻き付つく。 翼が刹那の発光と共に消失すると、セレナの姿はペンシルラインの黒のコンサートドレスに変じていた。 頭のうさ耳もいつの間にか、ただの黒いヘアバンドに変わっている。 「セレナ……何しに来たの……?」 「うふふふ……相変わらずつれないわね。地上に来ておきながら、お友達のあなたに顔を見せないわけにはいかないでしょう〜?」 セレナは口元に手をあてて、上品でありながら、嫌らしく笑った。 「……相変わらずみたいね……」 いつも何かを嘲笑うように薄ら笑っている女……それがアンブレラの知るセレナ・セレナーデという女である。 「それにしても、相変わらずいい趣味ね、あなたのお城は……」 アンブレラとセレナが居るのは、暗く輝く宝石のようなもので全てが作られた謁見の間だった。 自然(太陽)の明かりとも人工(電気)の明かりとも違う不可思議な紫の光が、天井から降り注いでいる。 「…………」 「うふふふふふ……で、その子がこの前、ハーティアの森からさらってきた女の子〜?」 セレナは、いまだに床で眠り続けているウィゼライトに興味深げな視線を向けた。 「……さらったわけじゃないわ。行きがかり上ちょっと預かっただけよ……」 いつから『覗いていた』など聞くだけ、気にするだけ無駄だと判断し、アンブレラはそのことには触れない。 「ふぅ〜ん……あらぁ?」 セレナの視線がウィゼライトの首……首に填められている物で止まった。 「素敵ね、その『首輪』……あなたとお揃いで……羨ましいぃ〜」 「……チョーカーと呼んで……」 「知ってるわよぉ、チョーカー(息を止めるもの)でしょう? 『魔王石(サタンストーン)』付きの……うふっ、うふふふふふふっ……」 「…………」 セレナはひとしきり笑った後、しゃがみ込んで、ウィゼライトの顎を右手で掴み持ち上げる。 「可愛いぃ〜……でも、この格好はあんまりね……うふふふふ、いいわ、私が適当に『見繕って』あげる……構わないでしょう、アンブレラ?」 ウィゼライトは薄汚れたワンピースを一枚纏っただけで、下着すら身につけていなかった。 おそらく、数千年前封印される前から着続けている物だろう。 その上、この前、アンブレラの炎獄翔で焼かれもしたのだ。 汚れ果てて、ボロボロで、最早服と呼ぶのもおこがましい布切れである。 「……本当に服をあてがうだけなら……」 「うふふふふふっ、解っているわよ、あなたの物を壊したりはしないわ〜」 セレナが立ち上がると、ウィゼライトの体が独りでに宙に浮かび上がった。 「…………」 「あなたとは仲良しでいたいもの……少なくとも今はまだね……うふふふふふふふっ!」 踵を返し、歩き出したセレナの後を、ウィゼライトがふわふわと浮遊しながら付き従っていく。 「まずはお風呂で洗ってあげるわ……そのままじゃばっちくて触りたくないもの」 「……セレナ、変なことは……」 「うふふふふ、解ってるぅ〜、今はまだ壊さないわ……良い子は嫌いだけど、もしかしたらこの子、私やあなた以上に悪い子かもしれないしね……うふっ、うふふふふふふ、あはははははははははっ!」 狂気を感じさせる高笑と共に、セレナとウィゼライトの姿は闇の中へと消えていった。 アンブレラは、セレナ達が姿を消すと、再び瞳を閉ざし眠りについていた。 「……ん……んん?」 眠りについてから、どれだけの時間が経過したのだろうか。 アンブレラは体を数度ブルブルと震わした後、目を覚ました。 「……無粋な……」 いつの間にか、アンブレラの左手には、ブルブルと定期的な振動を繰り返す水晶玉が握られている。 アンブレラは、己が眠りを妨げた『形態』水晶玉を不快げに睨みつけた。 「……そうね、一応話をつけておこうかしら…」 アンブレラは口元に微笑を浮かべると、水晶玉を宙に放りあげる。 「シェイド!」 空中で固定された水晶玉に、赤い鎧の女の映像が浮かび上がった。 『……何か用か……リーアベルト……?』 アンブレラが座っていたはずの玉座に、『影』が代わりに鎮座している。 影……立体(三次元)の影法師(人影)……影王シェイドがそこには居た。 「やっと繋がりましたか……何か用かではありません! 一度も連絡を寄こさずに、いったい今まで何処で何を……」 『寄り道だ』 リーアベルトの発言を遮るように、シェイドはきっぱりと言い切る。 「なっ……」 『……別れる時に言ったはずだ……少し寄り道をさせてもらう……とな……クククッ……』 シェイドの笑いは、からかうような、嘲笑うような響きが含まれていた。 「何が少しですか! マリアルィーゼもホークロードもとっくに戻っているというのに……」 『……心配するな……祭りの日にまでは戻る……それまでは連絡も不要だ……』 「なあっ!? そんな勝手が許されると……」 『許されるさ……我は貴様達とは違う……奴……ザヴェーラ様と主従の『契約』こそ交わしたが……貴様のような忠誠心も無ければ、マリアルィーゼ達のように飼われているつもりもない……我の意志と搗ち合わぬ限り『命』には従ってやる……それだけの関係だ……』 「くっ……」 リーアベルトが口惜しげに押し黙った。 自分とマリアルィーゼとホークロード、この三人とシェイドでは決定的に違うところがある。 それは、シェイドだけはザヴェーラを慕っていないということだ。 術師と悪魔や天使のような契約に基づく主従関係に過ぎないのである。 『どうしても我に用があるなら……ザヴェーラ様自ら『召喚』されることだ……契約だからな……その際は可能な限り従ってやろう……』 「シェイド、あなたは……」 『ではな、リーアベルト……』 「ま、待ちなさい! シェ……」 『散れ』 シェイドの呟きと同時に、リーアベルトを映していた水晶玉が粉々に砕け散った。 『…………』 「うふふふ……相変わらず面白い影絵芝居ね〜」 闇の奥から、セレナが歩いてくる。 『……別にあなたを楽しませるためにやっているわけじゃないわ』 シェイドの我口調が女性らしい口調に変わった。 アンブレラの口調である。 影(シェイド)が前方にずれ、玉座に座ったままのアンブレラが姿を見せた。 「……我が名は影王シェイド……影(アンブレラ)のさらなる影(シェイド)なり……」 アンブレラの口から、シェイドの『声』が吐き出される。 「……んんっ、まあ、こんなの芸という程のものでもないわ……」 一度咳払いすると、アンブレラの声質と口調が本来の彼女のものに完全に戻った。 「その素敵なお芝居で、お仲間も騙し続けているのでしょう〜? うふふふふ……」 「ええ、この姿を知っているのは、契約者であるザヴェーラだけよ……」 「うふふふ……それにしても、あなたが人間如きと契約するなんて……最高の笑い話ね……うふ、うふふふふふふふふふ……」 「ただの戯れよ……」 「それにしたって……ねえ? 仲間や部下を一人たりとも持たなかった孤高なあなたが、例え偽りでも主人を持つなんて……こんな滑稽な話はないわ……あはははははははははっ!」 セレナは、本人を目の前にしながら、遠慮なく彼女を嘲笑う。 「あぁ、おっかしい……唯一人で四方の魔王とその部下全て……あ……あらぁ……?」 アンブレラの右手が、セレナの左胸に突き刺さっていた。 「……うふふふ……お喋りがすぎた……かしら?」 「ええ、喋りすぎね……永遠に沈黙したい、セレナ?」 アンブレラは悪戯っぽく……それでいてとても冷たく微笑する。 「ディ……」 「待って待って! 私が悪かったから落ち着いて……その手を戻して……私達、お友達でしょう〜?」 「…………」 暫しの間の後、アンブレラは嘆息し、右手を引き戻した。 不思議なことに、セレナの左胸には穴も空いていなければ、血の一滴も流れていない。 「……本当に怖い人ぉ〜、たった一人のお友達を迷わず殺そうとするなんて……」 「……私に友達なんていないわ……私は常に一人よ……」 「うふふふふっ、解っているわよ。でも、私はあなたとお友達のつもりだから……」 「…………」 「といったところで……出ていらっしゃい、ウィゼライト」 セレナがパチンと指を鳴らすと、彼女の横に一人の少女が出現した。 黒髪のエルフの少女ウィゼライトである。 「……アンブレラ様」 掠れるような小声がウィゼライトの口から漏れた。 「うふふふふ、良い子過ぎて、虐め殺したくなるのを抑えるの大変だったのよ……」 「その服……剣の魔王の……?」 ウィゼライトを一瞥し、アンブレラが何とも言えないとても複雑な表情を浮かべる。 「あははははははっ! いいわ、その困ったような、嫌そうな……素敵な不興顔……あはははははははっ!」 アンブレラにそんな表情をさせることが目的だったのか、セレナはとても満足げに高笑いをあげた。 「……私への嫌がらせで用意したの……?」 呆れたような眼差しをセレナに向ける。 「うふふふふ……それだけが理由じゃないわ……ちゃんとこの子にはこの衣装が一番似合うと思ったから選んだのよ〜」 ウィゼライトが着ているのは、ゼノンのような黒いセーラー服だった。 だが、ゼノンのような完全な黒一色ではない。 四角い襟とカフス(袖口)に刻まれた二本ラインと、襟の下から通して結ばれているネッカチーフの色だけが、血のような赤色をしていた。 「メイド(侍女)服なんてのも在り来たりだし、私と違ってこの子胸がタイニー(小さい)だからドレスも似合わないもの。それに、流れるような黒髪、淡雪のような白肌……とくれば似合う服もやはり黒でしょう?」 「…………」 アンブレラは否定はしない。 彼女にとって問題なのは、ファッションがウィゼライトに似合っているか、似合っていないかではなく、そのファッションがゼノンを彷彿させるということだ。 「……アンブレラ様……この姿は御不快でしょうか?」 ウィゼライトが申し訳なさそうな表情を浮かべて、アンブレラに伺いを立てる。 「ん……いや、よく似合っているわ……」 世辞でも虚言でもなかった。 不快というか何とも言えない気分になるのは、あくまでゼノンを思い出すからであり、制服自体は彼女のためにあつらえて作られたかのように、これ以上なくよく似合っている。 「有り難うございます……安堵致しました……」 ウィゼライトは言葉踊り、主人の機嫌を損ねなくて心底安堵したといった感じだ。 「うふふふふ、本当に良い子ね……身も心も弄んで壊したくなる程……」 「あっ……」 セレナの両腕がスーッと背後から伸びてきて、ウィゼライトを優しく抱き締める。 「うふふふふふっ……」 「……っ……」 「震えちゃって可愛いぃ〜……怖がっているのはあなた? それとも、あなたの中の『蛟』かしら……うふふふふっ」 「……ぃ……ゃ……」 「うふふふふ、食べちゃおうかしら〜?」 セレナは、ウィゼライトの首筋に唇をつけたかと思うと、舌でペロリと彼女の首筋を舐めた。 「ひぃ……ゃぁ……」 「セレナ!」 「あはははははっ! 冗談、冗談よ。蛟なんて食べても大して美味しくないもの、うふふふふふふっ!」 アンブレラの一喝と同時に、セレナはウィゼライトから飛び離れる。 「あぁ、おっかしい、あなたが他人のことでムキになるなんて……うふ、うふふふふふふふ」 「セレナ……今度は本当に心臓を剔り取るわよ」 アンブレラが眼前に構えた右手が、紫黒の輝きを放っていた。 「怖い怖い〜」 刹那、セレナのコンサートドレスが発光したかと思うと、ハイレグ・レオタード、蝶ネクタイ、リストバンド、網タイツといった装束に変わっている。 また、ヘアバンドもいつの間にか消え去っており、代わりのように黒いうさ耳が頭頂から生えていた。 さらに、背中と腰からは二枚ずつ、計四枚の悪魔(蝙蝠型)の翼が生えている。 「……そっちの方がお似合いね……」 「ひっどい〜、女神なんだから鳥の翼の方が正当なのに……まあ、どちらにしろあなたと違って作り物の翼に過ぎないのだけど……うふふふふっ」 「…………」 「美しく舞い散る闇光の羽……憧れるわ。じゃあ、ちょっと散歩でもしてくるわね。また、後で遊びましょう〜、うふ、うふふふふふふふふふふ……」 翼を羽ばたかせて飛翔したセレナの姿は、笑い声だけを残して、闇の中へと消えていった。 一言感想板 一言でいいので、良ければ感想お願いします。感想皆無だとこの調子で続けていいのか解らなくなりますので……。 |